交通事故で脳脊髄液減少症となってしまった場合の損害賠償
1 脳脊髄液減少症とは
脳脊髄液減少症とは,脊髄腔から髄液が漏出し,脳脊髄腔内の圧力が低下することにより,頭痛,頚部痛,めまい,耳鳴り,視機能障害,倦怠といった症状がでる疾患のことをいいます。
かんたんに説明すると,脳と脊髄は硬膜という袋に入っています。この袋は髄液という液体によって満たされています。髄液の容量は,約140ミリリットルにもなります。脳や脊髄は,この髄液によって衝撃から守られている状態となります。
交通事故で頭を強く揺さぶられると,この髄液が漏れてしまうことがあります。そうすると,脳の位置がずれることによって,脳神経,脳の血管,硬膜などが刺激され,頭痛,耳鳴り,聴力低下といった症状が生じます。
2 脳髄液減少症と損害賠償
交通事故によって脳髄液減少症になってしまったとしても,現時点において治療費・後遺障害慰謝料の損害賠償請求をすることは難しいというのが実情です。
というのも,交通事故によるむちうちと脳髄液減少症との関連は,最近ようやく認められ始めてきたに過ぎません。むちうちを多く扱っている整形外科の医師の間でも,交通事故との関連性を否定する意見が多いようです。
また,脳髄液減少症に対する診断・治療法はまだしっかりとは確立していません。
そのため,保険会社や裁判所は,脳髄液減少症による損害賠償を認めない傾向にあります。
しかし,最近になって,厚生労働科学研究の脳髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究班により,「むち打ち症との関連」の疫学的解析や診療指針の作成が行われるなど,脳髄液減少症と交通事故との関係についての認識は急激に広まってきています。
また,脳髄液減少症による損害賠償を肯定した裁判例も存在します。
そのため,交通事故で脳髄液減少症と診断されてしまった方は,あきらめずに治療費・後遺障害慰謝料の損害賠償を請求することをおすすめします。
その際には,脳髄液減少症について詳しい弁護士に相談することをおすすめします。脳髄液減少症による損害賠償請求は高度に専門的な分野ですので,一般的な弁護士では必ずしも適切な対応をすることができないからです。
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