交通事故における弁護士基準の慰謝料
1 交通事故における慰謝料とは
不法行為により傷害を負った方は、加害者に対して、慰謝料を請求することができます。
慰謝料とは、不法行為により被った精神的苦痛に対して支払われる賠償金です。
なお、交通事故による損害のうち、物損については、例外的な場合を除き、慰謝料の請求は認められません。
2 慰謝料の算定方法
交通事故における慰謝料の計算方法には、自賠責基準と弁護士基準があります。
自賠責基準とは、自賠責保険に慰謝料を請求した場合に支払われる金額です。
一方、弁護士基準は、裁判所において裁判をした場合に認められる可能性がある慰謝料の金額であり、裁判基準ともいわれます。
一般に、自賠責基準よりも、弁護士基準の方が、慰謝料の金額が高くなる傾向にあり、特に、骨折などの重症を負われた場合には、差が大きくなります。
3 自賠責基準の慰謝料
自賠責基準の慰謝料は、事故に遭われ日から症状固定までの総治療期間と、実際に通院された日数を2倍にした日数のどちらか少ない日数に、4300円(令和2年3月31日以前の事故の場合、4200円)をかけた金額となります。
たとえば、通院期間が120日、実際に通院した日数が40日の場合には、40日×2=80日<120日であるため、4300円に80日をかけた34万4000円となります。
4 弁護士基準の慰謝料
弁護士基準の慰謝料は、損害賠償額算定基準(表紙が赤いため、「赤い本」と呼ばれています。)という書籍に、入通院慰謝料の算定表が掲載されています。
この慰謝料の算定表は2種類あり、原則として、別表Ⅰを使用して慰謝料を計算しますが、むち打ち症で他覚所見がない場合や、軽い打撲・軽い挫創の場合には、金額が低めに設定された別表Ⅱを使用します。
弁護士基準の慰謝料は、原則として、事故から症状固定までの通院期間に応じて慰謝料を算定します。
通院期間が4か月(120日)の場合、別表Ⅰでは90万円、別表Ⅱの場合には67万円が、裁判をした場合の慰謝料の目安金額となります。
通院期間が短い場合や、被害者に小さくない過失がある場合を除き、弁護士基準の慰謝料は、自賠責基準の慰謝料を上回ることがほとんどです。
相手方保険会社は、自賠責保険の範囲内で支払った賠償金については、後で、自賠責保険に対して求償することができるため、自賠責基準で慰謝料を提示してくることがほとんどです。
これに対して、弁護士が代理人として介入した場合、裁判も見据えた交渉ができるため、弁護士基準の慰謝料をベースに示談交渉を行うことができます。
5 弁護士基準の慰謝料の注意点
赤い本の慰謝料の解説では、「通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3.5倍(別表Ⅱでは3倍)程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。」との記載があります。
平成27年度版の赤い本までは、「通院が長期にわたり、かつ不規則である場合は実日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることがある。」(別表Ⅰ)、「慰謝料算定のための通院期間は、その期間を限度として、実治療日数の3倍程度を目安とする。」(別表Ⅱ)とされていました。
しかし、裁判例上、通院期間が短期の場合には、実通院日数の3倍を通院期間とした慰謝料よりもかなり高い金額が認定されている傾向にあることから、算定基準の見直しが行われました。
ところが、相手方保険会社は、通院期間が長期に及ばない場合にも、実通院日数の3倍の日数を通院期間として慰謝料を提示してくることが少ないことから、注意が必要です。